眠れない夜に「羊を数える」といいのは、なぜ? ― 心理学と脳科学から考える
2026/08/26
人間関係のことで悩んでいると、
夜になってもなかなか眠れないことがあります。
布団に入った途端に、
「今日、あんなこと言わなければよかったかな」
「相手、怒っていたのかな」
「嫌われたかもしれない」
「明日会ったら、どうしよう」
そんなことが次々と頭に浮かんでくる。
昼間は忙しくて考える暇がなかったのに、
静かになった途端、急に頭の中が
にぎやかになることがあります。
そんなとき、昔からよく言われるのが、
「眠れないなら、羊を数えるといいよ」
という方法です。
「羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……」
私も子どもの頃から聞いてきました。
でも、考えてみると不思議ですよね。
なぜ羊なのでしょう。
羊を数えると、本当に眠くなるのでしょうか。
今回は、この昔ながらの方法を、
心理学や脳科学の視点から少し考えてみたいと思います。
眠れないとき、頭の中では何が起きている?
人間関係で悩んでいるとき、
私たちは一つのことだけを考えているわけではありません。
「相手の表情が少し曇っていた」
と思ったところから、
「何か悪いことを言ったかな」
「もしかして嫌われた?」
「前にも似たことがあった」
「これから関係が悪くなったらどうしよう」
と、次から次へと考えがつながっていきます。
このように、同じことを頭の中で
繰り返し考え続けることを、
心理学では「反すう」などと呼びます。
問題は、
夜になって身体は休もうとしているのに、
頭だけが働き続けてしまうことです。
眠るためには、身体だけでなく、
頭の活動も少しずつ静かになっていく必要があります。
ところが、
「どうしてあんなことになったんだろう」
「明日はどうしよう」
と考え続けていると、
脳にとってはまだ「問題解決中」です。
つまり、布団の中にいるのに、
頭の中では会議が続いているような状態なのです。
そこで「羊が1匹……」が登場する
では、羊を数えると何が起きるのでしょう。
実は、羊そのものに眠らせる
特別な力があるわけではありません。
大切なのは、
「羊が1匹」
「羊が2匹」
「羊が3匹」
という、とても単純な作業を繰り返すことです。
すると、それまで
「嫌われたかな」
「なぜあんな言い方をされたんだろう」
「明日はどうしよう」
という人間関係の悩みに向いていた注意が、
少しだけ別のところへ移ります。
つまり、
悩みを考えることから、
単純な作業へ頭を切り替えている
のです。
羊を数える方法のポイントは、
・単純である
・同じことを繰り返す
・あまり感情を刺激しない
・悩みとは関係がない
というところにあります。
人間関係の悩みには、
怒り、不安、後悔、寂しさなど、
さまざまな感情がくっついています。
ところが、
「羊が37匹……羊が38匹……」
には、普通それほど強い感情はありません。
だから、一時的にでも
悩みの連鎖から離れやすくなるのです。
「考えないようにしよう」は意外とうまくいかない
眠れないとき、
「もう考えるのをやめよう」
と思った経験はないでしょうか。
ところが、
「考えないようにしよう」
と思えば思うほど、
かえってそのことが頭に浮かんでくることがあります。
「嫌われたことを考えない」と思うためには、
脳は一度「嫌われたこと」を確認しなければならないからです。
だから、
「考えない」
よりも、
「別のものに注意を向ける」
ほうがやりやすいことがあります。
羊を数えるという方法も、
その一つとして考えることができます。
実は、羊より眠りやすい方法もある
興味深い研究があります。
オックスフォード大学のHarveyとPayneは、
不眠に悩む人を対象に、眠る前の考えごとへの
対処について調べています。
その研究では、
単に気をそらそうとするよりも、
穏やかな場面を具体的にイメージする方法を
使った人たちのほうが、眠りにつくまでの時間が短くなり、
寝る前の心配も少なくなりました。
たとえば、
静かな海辺を歩いている。
森の中で風の音を聞いている。
温かい温泉につかっている。
そんな場面を、できるだけゆっくりと思い浮かべます。
すると頭の中のスペースが、
そのイメージに使われます。
その分、
「あの人は私をどう思っているのだろう」
という悩みに戻りにくくなるわけです。
つまり、昔ながらの「羊を数える」と
いう方法から、さらに一歩進めるなら、
悩みとは関係のない、
安心できるイメージに注意を向ける
という方法も使えるのです。
夜は、人間関係の答えを出す時間ではない
私はここが、とても大切だと思っています。
夜、布団の中で、
「あの人はなぜあんなことを言ったのだろう」
と1時間考えても、相手の本当の気持ちは分かりません。
明日の人間関係が良くなるとも限りません。
それなのに、私たちの頭は一生懸命に答えを探そうとします。
これは、心のエネルギーという
視点から見ると、かなり大きな消耗です。
夜まで人間関係の問題を持ち込み、
考えて、考えて、また考える。
でも、答えは出ない。
それなら、
「これは明日の自分に任せよう」
と、いったん手放してもいいのではないでしょうか。
眠れない夜には、頭に別の仕事を与えてみる
もし人間関係のことが頭から
離れず眠れない夜があったら、
無理に、
「考えちゃダメだ」
と止めようとしなくても大丈夫です。
代わりに、
ゆっくり数を数えてみる。
呼吸を数えてみる。
静かな景色を思い浮かべてみる。
安心できる場所をイメージしてみる。
そんな方法を使って、
頭の向きを少し変えてみるのです。
昔から言われてきた、
「眠れないときは羊を数えなさい」
という言葉。
科学的に見ると、「羊」に
特別な秘密があるわけではなさそうです。
でも、その奥には、
考え続けている頭を、
悩みからそっと離してあげる
という、とても大切な知恵が隠れているのかもしれません。
人間関係のことを考え続けて疲れてしまった夜。
その問題は、今夜解決しなくてもいい。
今日使った心のエネルギーを回復させることも、
大切な「心のエコ生活」の一つです。
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