2 上司に注意されるたびに「自分は仕事ができない」と落ち込んでいた男性の変化
2026/07/29
上司から仕事について注意された。
書類の修正を求められた。
報告の仕方について指摘された。
そのようなとき、注意された内容だけでなく、
「自分は仕事ができない」
「上司から信用されていない」
「また失敗するかもしれない」
と、自分自身を否定されたように感じてしまう方がいます。
注意を受けた場面を、帰宅してからも何度も思い返す。
翌日になっても気持ちが重い。
次に上司へ報告するときには、また注意されるのではないかと緊張する。
そのため、分からないことがあっても質問できず、
確認が遅れ、再び注意を受けてしまうこともあります。
今回は、職場で注意されると何日も引きずっていた方が、
カウンセリングで出来事と自分の価値を分け、
コーチングを通して具体的な行動を決めていった事例をご紹介します。
なお、個人が特定されないよう、実際の相談をもとに内容や設定を変更しています。
一度注意されると、頭の中から離れなくなる
30代のAさんは、
会社員として真面目に仕事に取り組んでいました。
頼まれた仕事は、できるだけ早く終わらせようとする。
間違いがないように、何度も見直す。
周囲に迷惑をかけないよう、分からないことがあっても、まず自分で調べる。
責任感が強く、周囲からも真面目な人だと思われていました。
しかし、上司から注意されると、
気持ちが大きく落ち込んでしまいます。
ある日、Aさんが作成した資料について、上司から、
「この数字は、もう一度確認してください」
「前回も説明しましたが、提出前にここを見てください」
と言われました。
上司は、仕事上必要な修正点を伝えたつもりだったのかもしれません。
しかし、Aさんの中では、
「前にも言ったのに、また間違えたと思われた」
「こんなこともできない人間だと思われた」
「もう信用してもらえないかもしれない」
という考えが一気に広がっていきました。
注意された内容より、自分を責め続けていた
Aさんは、指摘された部分をすぐに修正しました。
仕事としては、それで終わるはずでした。
ところが、Aさんの心の中では終わりませんでした。
帰宅してからも、上司の言葉や表情を何度も思い返しました。
「あの言い方は、かなり怒っていたのではないか」
「周りの人も、私のことを仕事ができないと思ったかもしれない」
「今度また失敗したら、本当に見放されるのではないか」
寝る前にも思い出し、翌朝になると職場へ行くことが重く感じられました。
上司の姿を見るだけで緊張し、話しかけられると、
「また何か注意されるのではないか」
と身構えるようになりました。
注意されたのは、資料の一部分でした。
しかしAさんの中では、
「資料の確認が不足していた」
という出来事が、
「自分は仕事ができない」
「自分は評価されない人間だ」
という自己否定に変わっていたのです。
分からないことがあっても、質問できなくなった
Aさんは、失敗を繰り返さないように、
もっと慎重に仕事をしようと考えました。
ところが、慎重になろうとするほど、
事への不安が強くなっていきました。
資料を何度確認しても、
「どこか間違っているのではないか」
と不安になります。
上司に質問すればよい場面でも、
「こんなことを聞いたら、また分かっていないと思われる」
「前に説明したと言われるかもしれない」
と考えてしまいます。
そのため、自分だけで何とかしようとして、
確認に時間がかかるようになりました。
また、質問するのが遅れたために、上司から、
「分からないなら、もっと早く聞いてください」
と注意されることもありました。
するとAさんは、
「やはり自分はだめだ」
と、さらに自分を責めます。
注意される。
落ち込む。
質問できなくなる。
確認が遅れる。
再び注意される。
Aさんは、この繰り返しの中で、
次第に自信を失っていきました。
最初から「気にしすぎです」とは伝えません
このような相談に対して、
「仕事なのだから、注意されることはあります」
「気にしすぎない方がよいですよ」
と伝えるだけでは、気持ちは簡単には切り替わりません。
Aさん自身も、頭では、
「仕事上の注意だ」
「自分の人格を否定されたわけではない」
と分かっていました。
それでも、注意されると心が大きく反応してしまいます。
そのためカウンセリングでは、
まず、注意されたときにAさんの心の中で
何が起きているのかを丁寧に整理していきました。
上司から注意されたとき、最初にどのような気持ちになるのか。
どの言葉や表情が特に心に残るのか。
注意を受けると、自分についてどのように考えるのか。
間違いや失敗を、どのようなものだと捉えているのか。
話をしていく中で、Aさんは、
「私は注意されると、内容を直すことより先に、
自分が否定されたと感じているようです」
と話しました。
出来事と、自分の価値が一つになっていた
Aさんの中では、
「資料の数字を間違えた」
という一つの出来事と、
「自分は仕事ができない」
という自分全体への評価が、一つになっていました。
しかし、この二つは同じではありません。
資料の数字に間違いがあったことは、事実かもしれません。
確認の方法を見直す必要もあるかもしれません。
しかし、それだけで、
「仕事がまったくできない人」
「価値のない人」
と決まるわけではありません。
一つの仕事で確認が不足したことと、
その人がこれまで積み重ねてきた仕事のすべては別のものです。
また、注意を受けたことは、
上司がAさんを見放した証拠でもありません。
今後の仕事に必要な修正点を伝えられた、と捉えることもできます。
Aさんは、
「私は、一つ注意されると、
今までできていたことまで全部なかったことにしていました」
と気づきました。
Aさんはこれまで、期限を守って仕事をしてきました。
同僚の仕事を手伝ったこともありました。
丁寧な対応を評価された経験もありました。
しかし、注意を受けた瞬間には、それらがすべて見えなくなっていたのです。
反省と自己否定は違います
仕事上の間違いがあったとき、振り返ることは必要です。
「どこで確認が足りなかったのか」
「次は何を確認すればよいのか」
「分からないとき、誰に質問するのか」
と考えることは、次の仕事に生かすための反省です。
一方で、
「自分は仕事ができない」
「何をしても失敗する」
「自分には能力がない」
と考え続けることは、
次の行動を具体的にする反省ではありません。
自分全体を否定する言葉です。
自分を責め続けても、確認する場所や質問の仕方は分かりません。
むしろ不安が強くなり、行動しにくくなることがあります。
Aさんは、
「私は反省しているつもりで、
自分を責めていただけかもしれません」
と話しました。
この気づきによって、
注意された場面を少しずつ違う角度から見られるようになっていきました。
注意の中身を具体的に分けていく
カウンセリングでは、
Aさんが上司から言われたことを、できるだけ具体的に整理しました。
たとえば、
「この資料はだめだ」
と漠然と受け取るのではなく、
「数字の転記を、元の資料と照合する必要があった」
「提出前に、確認する項目が一つ抜けていた」
と捉え直します。
すると、改善する部分が見えてきます。
自分という人間全体を変える必要はありません。
次回から、
「提出前に元資料と数字を照合する」
「確認項目を一覧にする」
といった具体的な行動を増やせばよいのです。
また、上司の言葉についても、
「怒っていたに違いない」
「自分を見放したに違いない」
という推測と、
「数字を確認するように言われた」
という事実を分けて考えました。
人間関係の悩みでは、相手の言葉そのものより、
その言葉から自分がどのような意味を受け取ったかによって、
苦しさが大きくなることがあります。
ここまでがカウンセリングの部分です
Aさんは、カウンセリングを通して、
「仕事の一部について注意されたこと」と、
「自分という人間の価値」を分けて考えられるようになっていきました。
また、
「失敗してはいけない」
「一度説明されたことは、すべて理解していなければならない」
「質問すると、能力がないと思われる」
という考え方が、自分を苦しくさせていることにも気づきました。
Aさんは、
「失敗しないことばかり考えて、
仕事を覚えるために必要な質問まで避けていました」
と話しました。
注意を受けたときの気持ちを整理し、
自分を苦しめている考え方に気づき、自己否定を少しずつゆるめていく。
ここまでが、カウンセリングの大切な部分です。
心が少し整ったところから、コーチングへ
Aさんは、次第に、
「注意されないようにすることだけではなく、
安心して仕事を進められる方法を考えたい」
と話すようになりました。
そこで、今後同じような仕事をするときに何ができるかを、
一緒に考えていきました。
「次回は、提出前に何を確認しますか」
「どの段階で上司に確認できるとよいでしょうか」
「分からないことがあるとき、どのように質問すれば聞きやすいですか」
「注意を受けたとき、自分にどのような言葉をかけたいですか」
このような問いを通して、
Aさん自身が、具体的な行動を決めていきました。
Aさんが最初に決めたのは、
提出前の確認項目を三つに絞り、メモにすることでした。
また、分からないことがあったときには、何となく、
「分かりません」
と聞くのではなく、
「ここまでは確認しましたが、この部分の判断に迷っています」
と、自分が確認したことと、
分からないことを分けて質問することにしました。
質問の仕方を具体的に練習した
Aさんは、上司へ質問することに強い抵抗がありました。
そこで、実際の職場を想定しながら、伝え方を一緒に考えました。
たとえば、
「先ほど説明していただいた件ですが、
私の理解では、この場合はAの方法で進めるということで合っていますか」
「資料をここまで作成しました。提出前に、この二点だけ確認させてください」
「自分で調べたところ、二つの方法がありました。
今回はどちらを優先すればよいでしょうか」
という伝え方です。
質問することは、何も考えていないことではありません。
自分で確認したことを伝えたうえで、判断が必要な部分を聞くこともできます。
Aさんは、
「質問すると能力がないと思われるのではなく、
確認せずに進める方が問題になることもありますね」
と話しました。
ここで大切なのは、
カウンセラーが正解を一方的に教えることではありません。
Aさん自身が、どの言葉なら使えそうか、
どのタイミングなら聞けそうかを考え、実際の行動につなげることです。
この部分に、コーチングの要素があります。
実際に、早めに確認してみた
後日、Aさんは上司から新しい資料の作成を頼まれました。
作業を進める中で、一つ判断に迷う部分が出てきました。
以前のAさんなら、
「これくらい自分で判断しなければならない」
と考え、質問せずに進めていたかもしれません。
しかしその日は、
「ここで確認することが、失敗を防ぐための行動になる」
と考えました。
そして上司に、
「資料はここまで作成しました。
この項目について、前回と同じ方法でよいか確認させてください」
と質問しました。
上司は内容を確認し、
「今回は条件が違うので、こちらの方法にしてください」
と答えました。
Aさんが質問しなければ、
前回と同じ方法で作成し、
後から大きく修正することになっていたかもしれません。
Aさんは、
「早めに聞いたことで、かえって仕事が進みました」
と話しました。
また、上司から、
「事前に確認してくれてよかったです」
と言われたことで、質問に対する捉え方も少し変わりました。
注意を受けたときの振り返り方も変わった
その後も、Aさんが仕事上の注意を
まったく受けなくなったわけではありません。
仕事をしていれば、修正を求められることもあります。
認識が違っていることもあります。
しかしAさんは、注意を受けたときに、
「自分はだめだ」
とすぐに結論づけるのではなく、
次のように整理するようになりました。
「何を直す必要があるのか」
「次回は、どこを確認するのか」
「分からない部分は、いつ質問するのか」
そして、注意された内容について必要な対応をしたあとは、
「今回は、ここを修正すればよい」
と考え、仕事全体や自分自身の評価に広げないようにしました。
帰宅してから思い出すことがあっても、
「今、また自分全体を否定しようとしている」
と気づけるようになりました。
そのうえで、
「間違いは修正した」
「次回の確認方法も決めた」
「今日は、ここまででよい」
と考えられるようになっていきました。
すぐに落ち込まなくなったわけではありません
Aさんは、今でも上司から強い口調で注意されると、落ち込むことがあります。
胸が苦しくなったり、頭の中で言葉を繰り返したりすることもあります。
長い間続いてきた心の反応が、すぐにすべてなくなるわけではありません。
それでも以前とは違い、落ち込んだあとに、
自分の状態を整理できるようになりました。
「上司の言葉の中で、事実として必要な部分は何か」
「自分が推測している部分は何か」
「次にできることは何か」
と考えられるようになったのです。
何日も自分を責め続ける時間も、少しずつ短くなっていきました。
この事例での「成功」とは何でしょうか
この事例での成功は、
仕事で一度も間違えなくなったことではありません。
上司から注意されなくなったことでもありません。
仕事をしていれば、確認不足や認識の違いが起こることはあります。
大きく変わったのは、注意された出来事と、
自分自身の価値を分けられるようになったことです。
そして、自分を責め続けるのではなく、
「次は何を確認するか」
「どの段階で質問するか」
「どのような言葉で伝えるか」
を具体的に考えられるようになったことです。
以前のAさんは、注意されると、
「自分は仕事ができない」
という自己否定の中で動けなくなっていました。
今は、
「今回は、この部分の確認が不足していた」
「次は、この方法を試してみよう」
と、出来事を次の行動へつなげられるようになりました。
これは、仕事の技術だけでなく、
自分の心を立て直す力が育ってきたということでもあります。
カウンセリングからコーチングへ
私のカウンセリングでは、
注意を受けて落ち込んでいる方に、最初から、
「もっと積極的に質問しましょう」
「失敗を恐れずに行動しましょう」
と伝えることはしません。
心が強く落ち込んでいるときは、行動を考える余裕がないからです。
まずは、注意されたときに何を感じたのか。
その言葉をどのような意味で受け取ったのか。
なぜ一つの失敗から、自分全体を否定してしまうのか。
その背景を一緒に整理します。
ここがカウンセリングの部分です。
そして、心が少し整い、
「今度は違う行動をしてみたい」
と考えられる状態になったところで、
「次回は何を確認するのか」
「どのタイミングで質問するのか」
「どのように伝えるのか」
を具体的に決めていきます。
ここに、コーチングの要素があります。
カウンセリングで、自分を苦しめている考え方を整理する。
コーチングで、次に取る行動を具体化する。
その方の心の状態を見ながら、
この二つをつなげていくことが大切です。
職場で注意されると、何日も引きずってしまう方へ
上司から注意されると、自分のすべてを否定されたように感じる。
失敗した場面を何度も思い返してしまう。
次に注意されるのが怖くて、質問や報告ができなくなる。
そのようなことが続いているとしたら、
あなたは仕事上の出来事と、
自分自身の価値を一つにしているのかもしれません。
仕事の一部で修正が必要だったことと、
あなた自身に価値がないことは同じではありません。
注意されたときに必要なのは、自分を責め続けることではなく、
「何を直すのか」
「次は何を確認するのか」
「分からないときは、どのように聞くのか」
を整理することです。
ただし、頭では分かっていても、
気持ちが追いつかないことがあります。
そのときは、すぐに前向きになろうとせず、
まずは自分が何を怖がり、
どのような言葉で自分を責めているのかを整理することが必要です。
オンラインカウンセリング《輝き》では、
職場の人間関係や仕事上の注意をきっかけに自分を責めてしまう方が、
安心して気持ちを整理し、自分を否定するのではなく、
次の一歩を考えられるよう、一緒に支援していきます。
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