一歩進むたび、心に風が吹く――『歩歩清風』を心理学から考える
2026/09/06
先日、朝ドラを見ていたときのことです。
「歩歩清風」
という言葉が出てきました。
「ほほせいふう」と読むそうです。
私は、この言葉を聞いたとき、
なんだかいい言葉だなと思いました。
漢字を眺めているだけでも、
一歩、一歩、歩いていく。
そこに、さわやかな風が吹いてくる。
そんな景色が浮かんできます。
少し調べてみると、「歩歩清風起(ほほせいふうおこる)」と
いう禅の言葉がありました。
一歩一歩の歩み、
一つ一つの行いの中に、
清らかな風が起こる。
そんな意味を持つ言葉です。
私はこの言葉を知ったとき、
「これって、心のあり方にもつながるな」
と思いました。
そして、心理学から考えてみても、
とても興味深い言葉だと感じました。
私たちの心は、何歩も先まで歩いてしまう
私たちは、実際にはここにいるのに、
頭の中ではずっと先まで歩いていることがあります。
たとえば、仕事で何か失敗したとき。
「明日、何か言われるかな」
「評価が下がったらどうしよう」
「これから仕事を任せてもらえなくなったらどうしよう」
「職場に居づらくなったら……」
一つの出来事から、
心はどんどん先へ進んでいきます。
まだ起きていないことまで頭の中で想像し、
その出来事に対して心のエネルギーを使っていきます。
人間関係でも同じです。
相手の表情が少し曇った。
それだけで、
「私、何か悪いことを言ったかな」
「嫌われたかな」
「次に会ったとき、気まずくなるかな」
と考えることがあります。
実際に起きたことは、
「相手の表情が少し曇った」
という一つの出来事です。
ところが心の中では、
その先、そのまた先まで歩いてしまいます。
だから疲れるのです。
「今の一歩」に戻ってくる
そんなときに思い出したいのが、
「歩歩清風」です。
一歩ずつ歩く。
今の一歩を歩く。
そして、
その一歩を歩いたところで、
次の一歩を考える。
これは、私たちの心を整えるうえでも
大切な考え方だと思います。
心理学でも、大きな課題を小さな行動に
分ける方法がよく使われます。
たとえば、
「これからの人生を何とかしなければ」
と考えると、とても大きな問題になります。
どこから手をつければいいのか分からなくなり、
動く力まで失いやすくなります。
そこで、
「今日は何ができるだろう」
と考えてみます。
メールを一本送る。
誰か一人に相談する。
机の上を少し片づける。
10分だけ取り組む。
一つ調べてみる。
こうすると、行動が具体的になります。
そして一つできると、
「ここまではできた」
という感覚が生まれます。
その小さな感覚が、
次の行動につながっていきます。
一歩進むと、見える景色が変わる
私は、「歩歩清風」という
言葉の魅力はここにあるような気がします。
遠くまで全部見通してから
歩き始めるよりも、まず一歩進んでみる。
すると、それまでとは
少し違った景色が見えてきます。
山道を歩くときもそうでしょう。
スタート地点から山頂までの道が
全部見えているわけではありません。
目の前の道を一歩進む。
さらに一歩進む。
曲がり角まで来ると、
その先の道が見えてきます。
人生も、少し似ているように思います。
今の場所から、
1年後、
3年後、
5年後まで、
すべてを見通すことは難しいものです。
それでも、一歩動くことで、
新しい情報が入ってきます。
新しい人と出会うこともあります。
自分の気持ちが変わることもあります。
「あれ、思っていたのと違ったな」
と気づくこともあります。
そのとき、また次の一歩を考えればいいのです。
行動すると「自分にもできる」が少しずつ増えていく
心理学には「自己効力感」
という考え方があります。
簡単に言えば、
「自分にもできそうだ」
という感覚です。
この感覚を育てるうえで大きいのが、
自分自身の小さな成功体験です。
難しいことを一度に成し遂げることだけが
成功体験ではありません。
「今日はここまでできた」
「昨日より一つ進んだ」
「やろうと思っていたことに手をつけられた」
こうした経験も、
自分の中に積み重なっていきます。
一歩。
また一歩。
その一歩が、
「もう一歩、行けるかもしれない」
という気持ちをつくります。
だから私は、「歩歩清風」という言葉には、
一歩進んだ先に風が吹く
というイメージを感じます。
動いたからこそ感じられる風です。
心のエコ生活にもつながっている
私は「心のエコ生活」と
いうことをお伝えしています。
心にも、使えるエネルギーには限りがあります。
だから、
自分が動かせるところに心のエネルギーを使う。
その一つとして、
「過去より次の一手を考える」
という習慣を大切にしています。
「あのとき、どうしてあんなことをしてしまったんだろう」
「あの人は、なぜあんなことを言ったんだろう」
「これから悪いことが起こったらどうしよう」
私たちの心は、過去にも未来にも動きます。
そんなとき、
「では、今の私にできる一歩は何だろう」
と考えてみる。
これだけで、
心のエネルギーの向かう先が変わります。
過去を何度も歩き直すエネルギー。
まだ来ていない未来を何歩も先取りするエネルギー。
そのエネルギーを、
今日の一歩に使ってみる。
これも、心のエコ生活だと思うのです。
今日の一歩は、小さくていい
一歩というと、何か大きな決断を
想像する人もいるでしょう。
転職する。
会社を辞める。
新しいことを始める。
誰かとの関係を大きく変える。
人生には、そんな一歩もあります。
けれど、毎日の暮らしの中にある一歩は、
もっと小さなものでいいと思います。
今日は少し早く休む。
誰かに「ありがとう」と伝える。
気になっていた人に連絡する。
散歩に出る。
一つだけ片づける。
自分の気持ちを紙に書いてみる。
「今日はこれでよし」と言ってみる。
それも立派な一歩です。
大きな一歩を一回踏み出すことより、
小さな一歩を続けることが、
その人の歩く道をつくっていきます。
一歩進んだところに、次の風が吹く
朝ドラの中で偶然耳にした、
「歩歩清風」
という言葉。
私はこの言葉を知ってから、
一歩進むたびに、そこに新しい風が吹く。
そんなふうに感じるようになりました。
先のことを全部決めてから歩く人生もあれば、
一歩進み、そこで吹いてきた風を感じながら、
また次の一歩を決めていく人生もあります。
「この先、どうなるんだろう」
そう思ったときには、
少しだけ視線を近くに戻してみる。
「今日、私にできる一歩は何だろう」
その一歩を歩いてみる。
すると、今いる場所からは見えなかった景色が、
少し見えてくるかもしれません。
一歩進んだところで、また考える。
そして、また一歩進む。
歩歩清風。
一歩、一歩。
歩くたびに、
心にも新しい風が吹いてくる。
そんな生き方も、
私は「心のエコ生活」の一つだと思っています。
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